1970〜80年代の国産大型オートバイ、いわゆる「旧車」の整備を得意とする法人の事例です。代表はレーシングチームのメカニック経験を持ち、エンジンのオーバーホール等、他店が引き受けない整備を請け負っています。
指標で見つけた課題
「小企業の経営指標(自動車整備業)」と比較したところ、売上総利益率は同業他社を2%上回っていました。一方で、従業員1人当たり売上高は同業他社を約360万円下回っていることがわかりました。
付加価値の高い修理を手掛けているものの、1件あたりの手間が大きく、充分な受注数をこなせていないことが要因であると整理しています。
また、経済産業省「ローカルベンチマーク」では、営業資本回転期間の長期化が示されており、受注残の多さが裏づけられました。
統計で裏づけた
総務省の統計では、オートバイ全体の保有台数は減少傾向にある一方、251cc以上の大型車は増加しており、2020年以降の増加が顕著となっています。
市場全体は縮小しているものの、この事業者が得意とする大型車の市場は10年超にわたり年1%以上の拡大が続いていると見込みました。
また、整備士不足により二輪車を整備できる販売店が減っており、遠方からの問い合わせが増えていることも、新たな需要として捉えています。
買ったもの・なぜそれか
導入したのは「ウェットブラストマシン」です。研磨材を水と混ぜて噴射する装置であり、素材を傷つけずに表面の汚れや腐食だけを除去することができます。
旧車のエンジンやブレーキキャリパーは、部品供給が途絶えているため破損が許されません。乾式では扱えない微細な研磨材を使えるこの装置により、これまで断らざるを得なかった旧車の整備を受注できるようになると見込んでいます。
また、洗浄・下地処理の時間を短縮し、代表以外の従業員でも対応できるよう作業を標準化することで、技能の承継にもつなげる計画です。
目標数値と3年計画
経営目標は「従業員1人当たり売上高1,600万円台」であり、同業他社の水準に引き上げることを目指しています。
補助事業により売上高を年100万円ずつ伸ばし、計画最終年度に目標を達成する計画としています。
申請書ではこう書きました
以下は、実際に提出した様式2からの抜粋です。事業者名・地名・取引先名・商品の固有名は伏せ、売上の実額は概数にしています。比率と公的統計の数値は原文のままです。
当社の経営課題としては、「従業員1人あたり売上高」が低い点にあると考えています。当社は様々な業務を請けているものの、安価なものから高価な作業まで様々となっています。そこで、これまで培ってきた「エンジンオーバーホール」等の技能に特化した業態へ転換することにより、高単価・高収益を実現する必要があると考えています。
様式2 経営課題
当社の強みは以下の3点にあると考えています。①「旧車」の点検・整備ノウハウを持っている。「旧車」と呼ばれるヴィンテージ・オートバイは、車齢40〜50年超経過している車両となり、当時の車両構造や車両ごとの癖を熟知した整備技術が求められます。
②「旧車」の部品調達ルートを有している。メーカーからの部品供給が途絶えており、独自のグローバルな調達網を用いて整備用部品を調達できている点も大きな強みであると考えています。「旧車」オーナー最大の不安である「修理不能」のリスクを解消し、愛車の継続的な所有を可能にすることができています。
③レース向けの車両整備にも対応できる。公道レベルを超えた過酷なレース環境で培われた、最高の整備技術とノウハウについても強みとなっています。過去のスペック以上の性能を引き出すことができる点は、他社に真似のできない当社ならではの強みであると考えています。
様式2 強み
オートバイ市場全体が縮小する中で、当社の得意とする「旧車」カテゴリーの大型二輪車(251cc以上)の保有台数が増加しております。また、旧車の価値が急騰し、整備ニーズが顕著に高まっています。一方で、整備士不足等により二輪車の整備を担える競合店が減少しており、当社に対しても遠方からの整備依頼が増加するなど、新たなニーズが表出しています。
また、当社は高付加価値な整備(エンジンO/Hなど)を行うため、収益性は高いものの、手間がかかりすぎるため「従業員1人あたり売上高」が同業他社水準を下回る水準となっています。
様式2 補助事業計画 2-2 背景・目的
私は、この事例の強みの書き方が最も参考になると考えています。①②③のいずれにも「なぜそれが強みなのか」の理由が付いており、抽象的な形容が1つもありません。「部品供給が途絶えている」「修理不能のリスクを解消できる」まで書くと、審査員が事業の希少性を判断できます。
同じ業種の方へ
私は、この事例で注目していただきたいのは「粗利率が高いのに儲かっていない」という状態の説明の仕方にあると考えています。
高付加価値だが時間がかかる、という構造を1人当たり売上で数値化できたことで、機器の導入理由が明確になりました。
整備機器の対象・対象外は「経費の判断」に、指標の読み方は「自社分析の進め方」にまとめています。


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