人口1万人規模の町で70年超にわたり葬祭業を営む、家族経営の事業者の事例です。申請時点の直近数年で自社店舗を家族葬向けに改修し、大規模葬儀は賃借ホール、家族葬は自社という使い分けに移行しつつありました。
指標で見つけた課題
売上高は感染症拡大時と比較して回復傾向にあり、営業利益も若干ながら計上できる水準でした。
一方で、「小企業の経営指標(葬祭業)」と比較したところ、売上総利益率は37.7%であり、指標の67.5%を29.8ポイント下回っていました。生花・香典返し・ホール利用料の高騰を価格転嫁できていないためです。
また、人件費対売上高比率は18.0%であり、同業他社の32.9%を大きく下回っています。収益性の低さを家族従業員の安価な労働力で補っている状況であり、経営課題は「売上総利益率の向上」であると整理しています。
統計で裏づけた
「家計調査」の葬祭関連費は、2021年に5,878円と感染症拡大前の38%まで減少し、2023年には10,023円となっていました。葬儀の規模縮小により客単価の減少が続いています。
株式会社鎌倉新書の全国調査では、2022年の葬儀価格は39.9%減少して110.7万円となり、家族葬の比率は全国で50%を超えています。この事業者の平均葬儀価格は全国平均をさらに下回る水準でした。
一方、「RESAS」で町の死亡数を確認したところ微増が続いており、人口ピラミッドでは過半が60歳以上であることから、一定以上の需要は今後も見込めると判断しています。
買ったもの・なぜそれか
導入したのは「2体を同時に保管できる遺体保冷庫」と「大型ポスター印刷機」です。
これまでは遺体をドライアイスで保存しており、長期保管での劣化、従業員の負荷、ドライアイス価格の高騰が原価を押し上げていました。通夜を行わない家族葬では保冷庫での保存が可能であり、原価削減と、葬儀日程が重なった際の「取りこぼし」の解消を同時に実現します。
また、新しい分譲地に転入した住民からの認知度が低いという弱みに対し、案内掲示への宣伝広告を強化するために印刷機を導入しています。
目標数値と3年計画
経営目標は「売上総利益率を37.7%から47.7%超へ」であり、3年後の達成を目指しています。
複数葬儀の受注体制により売上高を年2%超伸ばし、計画4期目に営業利益600万円台を達成する計画としています。
申請書ではこう書きました
以下は、実際に提出した様式2からの抜粋です。事業者名・地名・取引先名・商品の固有名は伏せ、売上の実額は概数にしています。比率と公的統計の数値は原文のままです。
当社の経営状況を分析するため、日本政策金融公庫の発行している小企業の経営指標より、葬祭業のデータを参照いたしました。当社と指標企業を比較すると、収益性を示す売上総利益に大きく差異が発生していることが明らかとなりました。当社の売上総利益は37.7%となっているのと比較し、指標は67.5%となっており、29.8%の差異が生じています。昨今、生花や香典返し、葬儀場の利用料等が高騰しており、充分に顧客転嫁できていない状況が継続しています。
当社の経営課題は「売上総利益率の向上」にあると考えています。地域柄、値上げ等に対して敏感であることは重々承知しているものの、現在の収益状況では事業の継続が困難となっています。そこで、特に当社の中でも収益性の高い「家族葬」を多く受注することにより、経営課題を解決していきたいと考えています。
様式2 1-2 現在の売上・利益の状況
当社の売上にかかる「死亡数」は、ここ近年増加傾向となっています。(中略)自治体における人口ピラミッドを確認すると、過半が60歳以上の高齢者により占められています。今後も高齢化は進むことから、一定以上の死亡者数は確保できるものと考えています。お亡くなりになる方が増加する傾向の中で、「日程が被る」という影響が生じてきています。
感染症拡大を経た2022年には、単価が39.9%減少し、110.7万円となりました。(中略)葬儀価格縮小の要因は、感染症拡大に伴い「家族葬」を選択される方が増加したことも影響しています。全国における家族葬の比率は50%を超えており、今後更なる増加が見込まれています。
様式2 2. 顧客ニーズと市場の動向
本事業実施の背景は、以下の3点です。1.低い売上総利益率 2.家族葬増加による葬儀の低単価化 3.地域における死亡者数の増加傾向
当社の最大の経営課題である「低い売上総利益率」を改善するためには、「高いサービスによる付加価値増加」を実現する必要があります。一方で、市場のニーズが「低単価化」に流れている現在、「客数の増加」にも取り組む必要があると見込んでいます。
様式2 補助事業計画 2-2 背景・目的
私は、この事例で最も学ぶところが多いのは「市場は縮んでいるが件数は増えている」という、一見矛盾する2つの事実を両方書いた点であると考えています。単価の下落(110.7万円)と死亡数の微増を並べたことで、原価削減と取りこぼし解消という2つの効果が、1台の保冷庫に無理なく結びつきました。
同じ業種の方へ
私は、この事例の要点は「粗利率の低さ」という1点に課題を絞ったことにあると考えています。
指標との差が29.8ポイントという数字があるため、保冷庫という設備の導入理由が審査員にも伝わります。また、市場の「低単価化」と「件数の微増」を同時に示したことで、原価削減と取りこぼし解消という2つの効果が1つの機器に結びついています。
指標の見方は「自社分析の進め方」に、保冷庫の費目は「経費の判断」にまとめています。


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