自社分析の進め方|無料の統計4つで、計画書に数字の裏づけを入れる

審査員は、あなたの事業を知りません。1社にかける時間は10〜15分程度です。私は、その短い時間で「この計画は根拠がある」と伝えるには、主観的な感想ではなく数字を置くしかないと考えています。

必要な統計は、すべて無料で手に入ります。このページは、4つのツールをどの順で使い、出てきた数字をどう計画書に落とすかをまとめた案内です。

🔴 決算書を、税金の計算だけに使っていませんか

決算書は、自社の経営課題を見つけるための資料です。同業他社の平均と並べた瞬間に、どこが弱いかが見えてきます。ここが計画書の出発点になります。

エピソードではなく、エビデンスで決めます

「新聞でキャンプ需要が高まっていると読んだので、補助金でキャンプ場を作りたい」というご相談を受けたことがあります。検索数を確認すると、キャンプ場の検索は既に減少に転じており、宿泊料は感染症拡大前の水準まで回復していました。たまたま見聞きした話(エピソード)で投資を決めると、施策と効果の分析が足りないまま進むことになります。

私は、データで事実を確認してから事業を検討する(エビデンス)姿勢が、補助金の審査に通るためというより、投資で失敗しないために必要であると考えています。そのための道具が、次の4つです。

4つのツールを、この順で使います

#調べること使うもの様式2のどこに効くか
自社の内部環境小企業の経営指標(日本政策金融公庫)1-2 売上・利益の状況/1-3 経営課題
商圏の人口・世帯数jSTAT MAP2-1 市場の動向
市場が伸びているか家計調査(総務省)2-2 顧客ニーズ
地域と業界の動向RESAS2-1 市場の動向

① 内部環境 ── 同業の平均と自社を並べます

日本政策金融公庫の「小企業の経営指標調査」を使います。融資実施先の統計であり、従業員50名以下・業種別に細かく出ていることが特長です。2年に1度の集計で、日本標準産業分類に沿った1,000超の業種区分があります。

見るべき指標は3つです。

指標何がわかるか
売上総利益率(粗利率)🔴 最重要。粗利の低い商売は、いくら売っても利益が残らない
人件費対売上高比率同業他社と比べ、十分な給与を払えているか
従業員1人当たり売上高受注量・生産性が同業と比べて足りているか

自社の数値を平均値・黒字企業平均と比べます。平均より低い項目が経営課題、高い項目は強みとして書くことができます。

指標はこの順に読みます

①まず売上総利益率を同業と比べます。粗利率が低ければ、課題は「付加価値」にあります。②粗利率に問題が無ければ、人件費対売上高比率と従業員1人当たり売上高を見ます。人件費比率が低い場合は、十分な給与を払えていない状態であり、その背景には設備投資の不足による生産性の低さがあることが多くなっています。③1人当たり売上高が低ければ、課題は「客数」か「受注量」にあります。

私は、この順で読むと、機器の導入理由が指標から一直線に導かれると考えています。→ 業種別の活用事例

業種でこれだけ違う粗利率

業種売上総利益率業種売上総利益率
建設業29.0%飲食業64.4%
製造業35.0%宿泊業80.1%
情報通信業69.0%医療業80.5%
運輸業46.0%福祉業93.3%
卸売業28.5%教育・学習支援業91.3%
小売業36.2%サービス業65.9%

売上原価に何を入れるかは業種で異なります。製造業は当期製造原価、小売・卸売は商品仕入高、飲食は材料仕入高です。※ 数値は日本政策金融公庫「小企業の経営指標調査」の代表的な業種の平均値です。最新の調査年の数値は、同調査でご確認ください。

利益を増やす方法は3つしかありません

#方法具体策持続化補助金との相性
売上を増やす販路拡大(新規顧客)・深耕営業(既存客のリピート)✅ 対象
粗利を増やす新商品開発・値上げ・生産性向上・仕入先の交渉✅ 対象
経費を削減する不採算部門からの撤退・不要な業務の精査❌ 省力化補助金等の他制度向き

売上は客数 × 客単価に分解します。客数が足りないのであれば、新規客なのか、既存客のリピートなのかまで掘り下げる必要があります。客単価であれば、メニュー単価なのか、買上げ点数なのかを分けます。ここまで分解すると、取り組むべき施策が絞られてきます。

AIに下読みをさせる

無料で使えるGoogleの「NotebookLM」に、小企業の経営指標のPDFと自社の決算書を読み込ませ、分析を指示すると、指標との比較が詳細に出力されます。私は、出力をそのまま計画書に貼るのではなく、どの指標に差があるかの当たりを付ける道具として使うことをお勧めしています。

② 商圏 ── 何世帯が住んでいるか

jSTAT MAP(統計GIS)で、店舗を中心にした半径を指定し、人口・世帯数・年齢構成をレポートで出します。徒歩圏であれば0.5km、自転車圏であれば2km、自動車圏は到達圏で設定するのが目安です。

🔴 いちばん重要なのは「世帯総数」です。これが次の掛け算に効いてきます。また、人口ピラミッドで多い年齢層が、B2C事業のターゲット顧客になります。

③ 市場 ── その市場は伸びていますか

総務省の家計調査を使います。1世帯が何にいくら使っているかの国の調査であり、「品目分類 1世帯当たり年間の品目別支出金額」に約1,000項目が並んでいます。

🔴 単年ではなく経年で見る必要があります。右肩上がりの品目であれば取り込んで売上増を、右肩下がりであれば付加価値で勝負するというように、打ち手が変わります。

直近の年報では、自動車整備費・歯科診療代・調理食品・エアコン・レンタカーの支出が伸びている一方、幼児教育費・カメラ・外国パック旅行・葬儀関連費は縮小しています。※ 家計調査は「総世帯」の平均であり、支出の無い世帯も含まれている点に注意が必要です。

④ 地域と業界 ── RESASで裏を取ります

RESAS(地域経済分析システム)では、商圏の人口ピラミッド・人口の増減とその要因・昼間人口と夜間人口・業界の動向を見ることができます。

  • 人口メッシュ分析 ── 半径500m圏内の人口・世帯の増減。増加している地域はビジネスチャンスとして提示できます
  • 昼間人口・夜間人口 ── 通勤者の流出入。ベッドタウンかどうかが判別できます
  • 産業構造マップ ── 自社の業界が伸びているか縮んでいるか。500超の小分類から選べます

🔴 ②×③ ── 商圏の市場規模を試算します

ここが、このサイトでいちばんお伝えしたい部分です。②と③を掛け合わせると、自社の商圏における推定市場規模が出ます。

家計調査の1世帯当たり年間支出額 × jSTAT MAPの世帯総数 = 商圏の推定市場規模

そこに自社の現在の売上を置けば、市場の中で自社が何%を取れているかが出ます。「まだ○%しか取れていないため、伸ばす余地がある」という書き方が、審査員に伝わると考えています。

※ 家計調査は「総世帯」の数値であること、商圏の全世帯が顧客になるわけではないことに注意し、試算である旨を明記する必要があります。数字を大きく見せるための計算にすると、かえって信頼を失います。

強み・弱みの書き方

🔴 弱み(経営課題)の記載も必須です。強みだけ書いて出すと、分析していないと見なされます。

  • 切り口は ヒト・モノ・カネ・情報、または QCD(品質・価格・納期)
  • 店主のこだわり、代表の経歴・資格、独自の調達ルートは「ヒト」「モノ」の強みになる
  • 経営指標で平均を上回っている項目は、そのまま「カネ」の強みになる

🔴 弱みは「補助事業で解決できるもの」を選びます

たとえば「商品価格が高い」という弱みは、設備を入れても解決しません。それを弱みとして挙げてしまうと、補助事業とのつながりが切れます。私は、解決できない弱みを書くのはもったいないと考えています。

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ご注意(免責事項)

分析手法に関する記述は、筆者の実務経験にもとづく個人的な見解です。統計の画面・項目名は各提供元の更新により変わる場合があります。申請にあたっては必ず最新の公募要領をご確認ください。個別のご相談は、お近くの商工会・商工会議所の窓口をご利用ください。