採択通知が届くと、ほっとされる方がほとんどです。ですが、窓口の実感を正直に申し上げます。私は、採択は補助事業の中間地点であり、ここからの実務の方が手間がかかると考えています。
小規模事業者持続化補助金は、「採択される」よりも「補助事業を実施して終わらせる」ほうが、数倍手間がかかります。
しかも、ここでの失敗は取り返しがつきません。発注のタイミングを1日間違えただけで、その経費が全額対象外になることがあります。 現金で払ってしまった、写真を撮り忘れた、請求書をもらっていない。どれも後から直すことができません。
この記事では、採択後にやることを時系列で整理します。採択された方は、この記事を印刷して手元に置いておいてください。 私自身、採択された事業者の方にはこの内容を紙でお渡ししています。
この記事でわかること
- 採択から補助金の入金までの流れと、かかる期間
- 交付決定日より前に発注してはいけない理由
- 必ず銀行振込にしなければならない理由
- そろえるべき6つの証拠書類
- 実績報告に必要な書類
採択から入金までの流れ
まず全体像です。
順番はこうなります。
- ① 採択決定 … 採択通知書が届く
- ② 交付決定 … 事務局が資金使途を精査。交付決定通知書が届く(採択から約2か月)
- ③ 補助事業の実施 … ここで初めてお金を使えます
- ④ 実績報告 … オンラインで報告書を提出
- ⑤ 補助金の額の確定 … 確定通知書が届く(約3か月)
- ⑥ 精算払請求 … 請求後に入金
採択から補助金の入金までは、合わせて半年以上かかります。 しかも精算払い、つまり先に自社で全額を支払ってから、後で補助金が入ってくる仕組みです。
手元の資金が足りないと、採択されても事業を実施できません。 申請の段階で、手元現預金と資金調達の余力を確認しておいてください。
🔴 交付決定日より前の発注は、補助対象になりません
採択通知が届いた時点では、まだ発注してはいけません。
「採択されたから大丈夫だろう」と発注してしまう方が、毎回いらっしゃいます。ですが、発注・納品・支払のいずれも、交付決定日より後でなければ補助対象になりません。
- 採択決定 … 「あなたの計画は採択されました」
- 交付決定 … 「この経費にこの金額を交付します」
お金の話が確定するのは交付決定のほうです。必ず交付決定通知書を受け取り、日付を確認してから発注してください。
交付決定額が「上限」になります
もう1点、大事なことがあります。
補助金の額は「使った金額の2/3」が基本ですが、交付決定時の額を超えることはできません。 実際に使った金額が交付決定額より多くても、超えた分は自己負担です。
ですから、申請時の見積りは、余裕を持った金額にしておく必要があります。 少なめに見積もると、後から足りなくなっても増額はできません。
※ ただし、各費目の変更には変更申請が必要です。金額を大きくしておけば何をしてもよい、という意味ではありません。
2つの期限を、最初にカレンダーへ入れる
補助事業には期限が2つあります。どちらも1日でもオーバーすると補助金は出ません。
- ① 補助事業実施期限 … この日までにすべての支払を終える
- ② 実績報告の提出期限 … 実施期限のおよそ1か月半後
この2つの日付は、交付決定通知書に書かれています。 通知書が届いたら、まずこの2つをカレンダーに入れてください。
とくに危険なのが、工事や機械の納期遅れです。期限の直前に納品予定を組むと、少し遅れただけで全額が対象外になります。期限の1か月前には支払を終える計画にしてください。
支払は必ず銀行振込で
10万円未満のものでも、現金での支出は避けてください。
理由は、「誰にいくら払ったか」を証明できるのが振込明細だけだからです。現金払いでは、領収書があっても実際に支払われたかどうかを事務局が確認できません。
実務上の注意
- 振込時の明細書を必ず保管してください。 ネットバンキングの場合は、振込完了画面のコピーを保存します
- 振込先の口座を確認するため、請求書は必ず入手してください
- 振込手数料は補助対象外です(自己負担になります)
設備が届いたら、必ず写真を撮る
納品されたその日に、写真を撮ってください。
「間違いなく納品された」ことを証明する資料です。設置後の写真だけでなく、開梱時の状態、型番が写っているものも撮っておくと確実です。
送り状等の付帯書類も、捨てずに保管しておく必要があります。
この「銀行振込」と「写真」の2つは、後から取り返しがつきません。 事業を始める前に、社内で共有しておいてください。
そろえる6つの証拠書類
補助事業では、1件の支出につき次の6点をそろえます。
- ① 見積書 … 何を、いくらで買うか(有効期限内であること)
- ② 発注書 … いつ、何を、いくらで頼んだか
- ③ 納品書 … 品物が納められたか
- ④ 請求書 … どの口座に、いくら支払うか
- ⑤ 振込明細 … 実際に振り込んだ証拠
- ⑥ 写真 … 購入したものが実在するか
この6点が、支出1件ごとに必要です。 経費を3件に絞れば18枚、10件に並べれば60枚になります。[記事5へのリンク]で「経費は支出額が大きいものから絞る」と書いたのは、この作業量が理由です。
なお、100万円以上の発注には相見積書が必要です(金額の基準は公募回により異なりますので、公募要領でご確認ください)。
実績報告に必要な書類
補助事業が終わったら、実績報告を提出します。オンラインでの提出です。
- 実績報告書 … どのような事業を実施したか、その効果
- 支出内訳書 … 誰に・いくら・いつ・どの経費を支出したか
- 経費支出の証拠書類 … 上記の6点セット(工事の場合は工事完了報告書も)
- 取得財産等管理明細表 … 50万円を超える物品を購入した場合。耐用年数と保管期限を管理します
- 賃金台帳・雇用契約書 … 賃金引上げ枠等の特例で申請した場合
進め方のコツ
集めた経理証拠書類から、まず「経費支出管理表」を自分で作ってください。 誰に・いつ・いくら・どの費目、を1行ずつ並べた一覧表です。
これを作ってから実績報告システムに入力すると、入力漏れと金額の食い違いを防げます。書類の束を見ながら直接システムに入力するのが、いちばん間違えます。
まとめ
- 交付決定通知書が届く前に発注しない。 採択通知だけでは発注できません
- 2つの期限(事業実施・実績報告)を、通知書が届いた日にカレンダーへ入れる
- 支払は全額を銀行振込にする。 明細は必ず保管
- 納品された日に写真を撮る
- 証拠書類は支出1件につき6点。 経費を絞るほど楽になります
- 入金は半年以上先。 先に全額を自社で支払う資金が必要です
採択後の手続きで分からないことがあれば、申請を支援してくれた商工会・商工会議所の窓口にご相談ください。 「もう採択されたから」と自己判断で進めるのが、いちばん危険です。
参考
- 小規模事業者持続化補助金(中小企業庁) https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/shokibo/jizoku/
- 対象にならない経費は補助金で買えないもので解説しています
- 補助事業計画書の書き方は補助事業計画書の書き方をご覧ください

